あることないこと。

管理人が絵を投げるだけのブログ。

【本編】My mind world 01

・文章力皆無につき、注意。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 prologue:空白の少年

 

 

 

 

 

 


夢って、どんな意味を持っていると思う?

 


将来の夢。
空想、楽しい考え。
心の迷い。
僕らの世界には色々な「夢」がある。
でもどんな「夢」でも現実には現れないし、そこには実在しない物。
「スポーツ選手になりたい」って夢も。
「億万長者になる」って夢も。

そして、布団に潜れば体験できる、あの「夢」も。

全ては夢まぼろしで、今存在する事が無い。
僕らは常に、存在のしない何かを追いかけて日々を送る。
無い物だと現実を突きつけられ、心が抉られるような、全てが溶けてしまうような、そんな気分になっても。
僕らは、いや、僕は、
空っぽの頭で自分の望みを夢に変えて目を瞑る。

知ってるよ、現実じゃないって。
わかってるよ、あり得ないって。出来ないって。
そうだ、全部わかってるんだ。
だから「夢」見たっていいじゃないか。

 


ねぇ。―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Chapter:01

 

サア、と青白いカーテンが靡く。
前夜開けたままの窓から残暑の熱を通り抜けて、調度良く冷えた風が顔に当たる。
温度の上がった肌を少し冷まして、少年はゆっくりと目を開けた。
慣れない、刺すような光が目に入る。
その光を目覚まし代わりに、まだふわふわとした意識を振り絞って体を起こした。
9月最初の、新学期の朝だった。


少年・慎内恭也(しんないきょうや)は中学二年生だ。
閑静な住宅街に住み、市立の中学校に通う。
父親と二人暮らしで、母親は早くに亡くしてしまったが、父の収入は二人でやっていける分にはあったので、まあなんとか生活出来ている。
片親がいないという状況はあるものの、ここだけを聞けば彼はいたって普通の少年。
しかし今、慎内恭也には「抱えるもの」があった。
それは勉強が出来ないとか、運動が苦手とか、まして母親がいないとかそういう事ではない。
彼は、学校に行く事が苦痛に感じて仕方ないのだ。
元々、恭也は人との付き合いが上手くはない。内気で物を言わず、不気味な子。長い前髪と決して良くは無い目つきで、周囲にそんな印象が付いていたのが主な理由だ。なので小学校に入りたての頃はなんとなく避けられていたし、孤立していた。
そんな彼にも、多くはないが友人と呼べる者達がいた。片手の指で数える程しかいなかったが、恭也は特別心がぽっかりと空いてさみしいとは思わない。付き合いが難しい彼にとって、その数こそ自分にぴったりだと思っていたからだ。
その少数の友人達。名を藤井、田崎、深山と言う。
彼らはとても友好的な人間だった。小学校の騒がしい業間、恭也が教室の片隅でさみしく自由帳をめくっていたところ、一緒に遊ぼうと声を掛けてくれたのである。
それがきっかけで、恭也は彼らとずっと一緒にいた。彼らも恭也を快く受け入れてくれていた。休み時間や放課後、校庭で駆け回って遊具で遊んで、恭也は今まで知らなかった楽しみを得る事が出来た。
しかし、それは長くはもたなかった。
彼らの関係が崩れたのは、小学四年生の時だ。その日の放課後、恭也は3人とは別で早く帰らなければいけない用事があった。教室に残る彼らに軽くごめん、と言いすばやく教室を出る。少し早めで、下に降りる階段まで伸びる真っすぐな廊下をひたすら歩いた。
右に曲がり階段を数段駆け下りたところで、恭也はふと、自分の荷物がやや「軽い」事に気付いた。あわててランドセルを足元に下ろし中身を確認すると、いつも入れて帰っている、プラスチック製で縦長の筆箱が無かった。
自分の机の中に忘れてきたのだと、すぐに場所を特定することが出来た。用事に間に合わないなんて事になってはいけないので、すぐにもと来た道を引き返し、教室に戻る廊下を走る。
「4-2」と書かれた教室の前で足を止める。引き戸を開けようと手を掛けた時、教室の中から聞きなれた声が聞こえてきた。
中にいたのは藤井と深山だった。田崎の姿は見当たらないが、きっとトイレか何かに行ったのだろう。
引き戸の窓からそっと覗きこむと、二人がげらげらと大声をあげて笑っているのが見える。
二人が楽しそうに談笑しているのを見て、恭也は教室に入るのを躊躇した。あのふたりは4人の中でも特別仲が良いから、今ここで扉を開けて邪魔をしてしまっては迷惑だと思ったからだ。
しばらく笑い声が止むのを待ってると、「そういえばさ」と何かを思いついたような声が上がった。深山だ。
「あいつ、まだ俺たちにひっついてるつもりらしいよ」
「あー、やっぱり」頷きながら藤井が同意する。
初め二人が何を言っているのか、恭也にはわからなかった。でも胸の内、その発言にどこかひっかかるものを感じていたのだが、それが何者なのか、まだ彼には理解出来ない。
誰かの噂だろうか、と引き戸の前で首をかしげる。すると深山と藤井は次々とその噂を立てていく。
「そりゃ初めは俺らが声をかけたさ」
「でもありえなくね?一回遊びに誘っただけだぜ」
「そうなんだよ。次の日もついてくるとかまじイラっときたわあの時」
「そうそう。ぶん殴ってやろうかと思った。」
「ははっ、でも俺ら優しいからさぁ」
「そうそう。俺ら優しいから。しばらく遊んであげたよな」
「男のくせに鈍くさいし笑わないし前髪長くて。不気味?っていうかきもい。よくあいつといられたよな俺ら」
「全然喋らなくて困りもんだよ。でもそのくせ目つき悪ィから。呪いの人形みてー」
「呪いの人形!わかるそれ」
「俺人形とか大っきらいなんだよ。だからあいつも嫌い。」
「俺もだよ。お願いだからこっちくんなー、って感じ。」

「本当、迷惑だよな恭也は」

頭が真っ白になった。
え、今何て言ったの、と言えるはずもなく、恭也は今聞いた事が信じられなくて、目を見開きながらぱくぱくと口を動かした。
―――ありえなくね?一回遊びに誘っただけだぜ
―――まじイラッときたわあの時
―――鈍くさいし笑わないし前髪長くて。不気味?っていうかきもい。
―――お願いだからこっちくんなー、って感じ。
深山と藤井の声が、いや実際もう誰が誰の声なのかわからなくなっていたが、それが谺のように脳で何度も何度も反響して、頭を揺らす。
目の前がぐにゃ、と歪んだ。耐えきれず目を瞑ると、温かい水が頬を流れていく。
恭也は静かに泣いていた。ただ扉の向こうの、二人の悪魔のような笑顔を見詰めながら、ゆっくりと涙を流し、
…気づいたら校門を出ていて、家の前まで走っていた。

次の日から学校は地獄だった。
いつもと変わらず「つくり笑顔」をうかべて接してくる3人に耐えきれず、どうして今まで自分が迷惑だと黙ってたんだと聞いてしまい、その日から藤井達の態度は変わってしまった。口を開けば恭也を罵倒し、机を蹴飛ばされ、そして、突き離される。
そんな日々がずっと続いていた。ああこんなことなら孤独でもよかった、今の方がよっぽど苦しいじゃないかだなんて、子供ながら恭也は痛いぐらいに分かっていた。
小学校を卒業してもそれは変わらなかった。彼らも、恭也と同じ中学校に入学していたのだ。
恭也は転校したいと父親に駄々を捏ねたが、転校費用を出せるようなお金はなく、なにより原因である3人のことについて父に言わなかったので、同じ学校に行かないという道は断たれてしまった。
3人に追いつめられる日々は、避けることができないのだ。

そして今。恭也は長いようで短かった中学校生活二回目の夏休みを終え、また学校という地獄へ行かないといけないことになる。

だるい。

胃が痛い。
きもちわるい。
もう帰りたい。家だけど。
3人に会うって事はもちろん、あの一件以来人と接するのすら嫌になっていた。集団生活が中心となる学校では、コミュニティというのは必要不可欠で、それをしなくてはいけないイコール、彼にとっては死、みたいなものだった。
ああ嫌だな学校。怖いなあ学校。恐ろしいな学校。
ぼけっとした顔で天井を見つめながら、脳内でつらつらと並べる。そんなことをしているうちに、学校への出発時間は刻一刻と迫ってきていた。
枕元にある、目覚ましの設定をし忘れた時計を見る。時刻は午前八時。あと十数分で、もう家を出なければいけない。
―――腹を括るか。
はぁ、とため息をついて、恭也は自信の制服のかかったハンガーに手を掛けた。

 

 

 

 

 


結局、その日は何も起きなかった。
3人と会わず、午前中のみの新学期開始日は、始業式をするだけの比較的平穏な日だった。
家に着き、玄関のドアを空けて、すぐ前にある階段を駆け上り、上ったところすぐ手前の、自分の部屋のドアを勢いよく開いた。
朝から放置のくしゃくしゃなシーツが引いてある、やや固めのベッドに、魂が抜けたようにパタリと倒れる。
ふぅ、と安堵の息が漏れた。そのまま布団にくるまって丸くなり、目を閉じる。

ああ、よかった。今日は何もなかった。
慣れた自分のベッドの匂いと感触に、恭也の意識は瞬く間に落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【side:D】


眠りにつけば、夢を見る。

恭也は去年の夏から、毎日のように同じ夢を見ていた。
自分が、学校にいる夢。
いつもと変わらない同じ学校の風景。学校生活。
自分の席の位置も、窓から見えた外から伸びている渡り廊下の景色も、クラスにいる人たちも。全部いつもと変わらない。
最初こそは夢にまで学校か、と重たい息を吐いたものだが、一年も経てばもう慣れたものだ。
夢のスタート地点は自分の教室からすぐ出て見える廊下だ。昇降口から入って左、すぐある階段を上ってまた左。そこから伸びていく廊下。
廊下の奥には闇が置かれている。黒くのっぺりとした壁みたいで、先に何があるのか見えない。
自分は見えないものは気になるタチだと自嘲する。奥に行き、その先を確かめて見ようとするのも恭也にとって「いつもと変わらない」動作だった。
進もうと、右足を前に出そうとする。すると何かがガララッ、と足に当たり転がった音が聞こえた。
足元を見ると、そこには一本の鉄パイプが転がっている。

…これも、いつもと変わらない。
そう思いながらゆっくり腰を降ろし、鉄パイプを手に取った。

「やぁ、今日は早かったね」
突然、頭上から声がかかった。分かったように無表情で、その声の主を見上げる。
「今日は始業式だったんでしょ?おかえり。早くに会えてうれしいよ」
感情の見えない目で、恭也はそう言った人物の顔を真っ直ぐ見つめた。そこには、またいつもと変わらない「白い少年」がいた。

白い少年は、恭也と同じ。顔も同じ。背も同じ。着ている制服も同じ。

そっくりなんて、そんな言葉は軽い物だった。「同じ」なのだ。一卵性双生児ではないが、彼らは双子のようにうり二つであった。
ただ違うのは、貼りついた笑顔。髪の毛が真っ白。そして恭也と同じの長い前髪から覗く二つの瞳は、真っ赤な色に染まっているということ。
その瞳は血のように深い色だった。見つめれば血の海に吸い込まれて溺死してしまいそうだ。

「俺は別に会いたくないんだけど」

表情を変えずに恭也が言う。
「知ってるよ、君の事なら何でもわかるもの」
怪しい笑みを浮かべる白い少年が答える。
「何でもわかるなんて、まるでエスパーだな」
「はは、それもいいね。かっこいい。僕の事は今日からエスパーさんって呼んでもいいよ?」
「それは嫌だ」
何が悪くて自分と同じ顔をした人をエスパーさんって呼ばなければいけないんだ。しかもさん付け。
眉ひとつ動かさず恭也は心の中で嫌味を言ったが、
「今、僕に対して嫌味なこと思ったでしょ。」
崩さない笑顔の白い少年がすかさず突っ込んできた。
「言ったじゃない何でもわかるって。あーあこのやりとりも何回目かなぁ。何度も言うけど、僕は君の事なら何でも分かるんだよ。はいちゃんと覚えて帰ってね」
ここ次回のテストに出るよ。
なんて言いながら、指示棒を持って黒板をたたくフリをする。
正直に言おう。うざい。そのふっさふさ生えた白髪一本残らず抜き取ってやりたい。
そんな考えもやはり白い少年にはお見通しのようで、彼はふふっ、と笑いながら言った。
「何でもわかるんだよ。君の事だけ、だ。僕はさっきあんなこと言ったけど、エスパーではないよ。…じゃあ、何故か。知りたいかい?」
知りたい、とは恭也は言わなかった。だって何度も聞いているから。知りたいも何も、もう答えは知っている。
「知りたいなら教えてあげよう。知ってる?そんな事はどうでもいいさ」
浮ついた足取りで、くるりと背を向ける。
「僕は君と同じ顔を持っている。君と同じ背丈もある。君と同じ声、君と同じ制服、君と同じ。それが何を意味しているでしょうか。」
カツ、カツ、と、廊下を歩く音が響く。
ある程度まで歩くと、白い彼は恭也に向き直り、右手の人差し指を空に掲げた。そして目を細め、笑顔に釣り上った赤き口を開いた。

 


「答えは簡単。僕が君で、君が僕だからだ」